※ 2017〜2018年にはてなブログ(「英語クエスト」)に綴っていた記録を、2026年にまとめ直したものです。当時の文章を、中身もできるだけそのまま残して再構成しました。
2018年の春、僕は大学3年生になった。進路――というか、自分が本当にやりたいことを、そろそろ明確にしておきたい時期。正直、またしても迷走していた。ビジネスやメディアアートの分野に興味があって、この頃はIT系の企業や、筑波大学のデジタルネイチャー研究室を見学しに行ったりしていた。何かヒントが掴めればいいな、と思いながら。ブログも珍しく毎日更新を頑張っていて(理由は日々の記録と、マネタイズへのかすかな希望……無収入の学生ニート、バイトせねば)、読んだ本・観た映画・挑戦したことを、せっせと記録していた。その中からいくつかを残しておく。
挑戦:全国通訳案内士試験
英語を活かす道のひとつとして、この年、僕は全国通訳案内士試験を受けることにした。観光地を巡りながら外国人観光客をガイドする国家資格だ。「外国人と話せて、観光できて、お金まで稼げるなんて最高じゃないか」――そんな軽い気持ちで志したのだが、改正されたばかりのガイドラインを見て青ざめた。
TOEICによる外国語試験の免除条件が、急に厳しくなっていたのだ。新ガイドラインでは「L&R で900点以上、かつ S&W で8割(S 160点/W 170点)以上」が英語筆記免除の条件。前年までは普通のTOEICで840点以上あれば免除だったのに、である。背景には、2020年の東京オリンピックを見据えた通訳案内士法の改正があった。無資格でも有給ガイドが可能になった結果、試験の難易度を上げて合格率を下げても、新人ガイドの総数に影響が出にくくなった――それが免除規定厳格化の主因らしい。まさに「通訳ガイドクライシス」のタイミングで、僕はこの世界に足を踏み入れようとしていた。
幸い、英語の筆記は英検1級で免除できる。けれど、高校以来ご無沙汰の地理・日本史の筆記(8月)と、もともと苦手な口頭試験(12月)が不安だった。対策期間はおよそ6ヶ月。英検の二次対策で使ったブログや参考書が、また活躍しそうだった。この期は留学生のチューターも任せてもらえそうで、そこでのスピーキングの機会も活かしたい。なお口頭試験は「通訳・通訳ガイドのデモンストレーション」で、形式上は絶対評価。ただ受験生全体のレベルが上がって面接官の基準が引き上がれば、実質的に相対評価となって難化しうる。1次の難化やTOEIC免除の猛者たちと競るぶん、今年はハードモードだと予想していた。
結局のところ、合否を決めるのは、シンプルに「合格できるだけの準備ができたか」だけ。文字に起こしたらスッキリしたので、ほどよく楽しみながらやっていこう――そう書いている(大学院は他県に進学予定だったので、スケジュール的には今年度中に合格して、来年度だけでも地元で通訳ガイドを務めてみたかった)。
ベテラン通訳案内士に聞いてみた
ちょうどこの頃、岩手を中心に全国で活躍されているベテラン通訳案内士の方(ここではSさんとしておく)とお話しする機会に恵まれた。新人ガイドを目指す身として、気になることを色々と質問させてもらった。
① 新人通訳ガイドに需要(仕事)はあるか? Sさん曰く、有給ガイドは都心部なら需要があるかもしれないが、地方では少ない。岩手のような地方では、まずボランティアとして経験を積み、ガイドコミュニティのコネクションを増やしていくのがいい。信頼を勝ち取れば、次第に有給の仕事がもらえるようになる、と。
② 通訳ガイドで大変だったことは? 「味噌はどうやって作るの?」「この鳥居は何のため?」「相撲の起源は?」「平泉はなぜ文化的価値があるのか?」――日本人が普段気に留めない=多くの日本人が答えられないことほど、外国人は気にする。外国人は日本人よりも日本文化をよく見ている。だから、日本を客観的に捉え、他国には新鮮に映る自国に「気づき」を得ることが大切。そのためには外国の友人と交流して日本についての疑問を聞いたり、「日本の事象300選」などの本で教養をつけるのがおすすめ、と教わった。
③ 通訳・通訳ガイドをしていて良かったことは? 仕事の過程で幅広い知識が身につくこと。通訳の内容は多岐にわたるので、下準備を通じて教養がつく。しかも通訳される相手はその業界の一流なので、一級品の話を間近で聞ける。
他にもためになる Tips をたくさんいただいた。
- 他県に行っても、その土地のことを勉強すれば仕事はできる
- 都会はルーティン(やる人・やることが決まっている)
- まずは登録。いろいろな観光協会がある
- 日本の歴史を英語で読む(「気づき」の話と関連して)
- 翻訳業務ではブラインドタッチが必須
- 口頭試験では、面接官が5m先にいることもあるので大きな声で。どんなにいいガイドでも、伝わらなければ意味がない
- 付加疑問(Do you? / Don't you?)の応答は間違えやすいので注意
- スピーキングをなまらせないために「音読」。題材は自分が興味のあるものだと続けやすい
「通訳業務を通じて他業界の一流の話を聞けて教養もつく」という点は、試験へ向かう大きなモチベーションになった。新人はまずボランティアから、というのも納得。マネタイズのタイミングは後ろでもいい。フレンドリーに接してくださったSさんに、心から感謝している。
読書:『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』
この頃の僕は、読書を「投資効果が高い」と考えていた。ただインプットするだけでは足りないと気づき、情報を「使える知識」「教養」へ昇華するためのアウトプットも兼ねて、レバレッジリーディング(要点を抜き出す読み方)の記録をブログに残していた。まずは序章〜第1章のメモから。
- 人生100年ライフ:私たちの人生は、これまでになく長くなる。人生の様々な決定の基準にしているロールモデルより長く生き、社会の習慣や制度が前提とするより長く生きる。過去200年間、平均寿命は10年に2年以上のペースで延びてきた。
- レクリエーションからリ・クリエーションへ:多くの移行とステージを生きる時代には、投資を怠ってはならない。新しい役割に合わせてアイデンティティを変える投資、新しいライフスタイルを築く投資、新しいスキルを身につける投資。余暇を消費とレクリエーション(娯楽)に使うのではなく、投資とリ・クリエーション(再創造)に振り向ける。
- 「一斉行進」が終わる:マルチステージの人生では、どのステージをどの順番で経験するかの選択肢が大きく広がる。今日の社会は、年齢とライフステージが一致することを暗黙の前提としており、企業の人事制度・マーケティング・法律にもその前提が深く根を張っている。
- 平均寿命上昇の理由:最初は乳幼児死亡率の改善、次に中高年の慢性疾患(特に心臓血管系の病気とがん)対策。次に寿命を大きく延ばすのは、高齢にまつわる病気の克服だろう。
- 世界中で寿命が延びる:1900年、インドの平均寿命は24歳、アメリカは49歳。1960年にアメリカは70歳まで延びたがインドは41歳。しかしインドの経済成長が加速すると差は縮まり、2014年には67歳に達した。100年ライフは世界規模で広がりつつある。
20歳そこそこで読んだこの本のメッセージは、今振り返るとなかなか効いている。
読書:『起業の科学 スタートアップサイエンス』
いちばん刺さったのは「イシューからはじめよ」という考え方だった。良いアイデアとは、課題の質とソリューションの質がともに高いもの。そして「課題の質を上げる→ソリューションの質を上げる」というパスは存在するが、その逆は存在しない。だから真っ先に注力すべきは、解くべき課題の質を上げることだ。著者は1500以上のスタートアップを見てきて、「イシュードリブン」ではなく「ソリューションドリブン」「プロダクトドリブン」「技術ドリブン」に陥っているものが目立つ、と指摘する。
課題を軽視した失敗例として挙げられていたのが、Google Glass(発売当時17万円、プライバシーも問題に。課題・アイデアの検討が不十分でプロダクトドリブンだった)や Apple Watch(Appleの想定ほど、ユーザーは腕時計サイズの画面で地図を見たり買い物をしたりしなかった)。
課題の質を決めるファウンダーの要素は4つ。①高い専門性、②業界の知識、③市場環境の変化(PEST)への理解度、そして④「自分事」であるか。「痛み」の当事者であったり共感を持っていないと、課題を本気で磨き込むのは難しい。
これは自分のビジネスプランを振り返っても、思い当たることばかりだった。大船渡のビジネスコンテストで最優秀賞をもらった「物々交換×自慢」のプラン("おらほの自慢")は、「大船渡の観光客・人口減少」というイシューに真正面から向き合えていた。一方で、作り手と創り手のマッチングを狙った「ツナグ」は、生産者やデザイナーの課題を理解しきれず、WebサイトのUIなど小手先の勝負=プロダクトドリブンに陥って、磨き込みが足りなかった。「痛み」をいかに自分ごととして捉えられるか。できるだけイシュードリブンで考えていきたい――そう書いている。
映画:『フォレストガンプ』
不朽の名作と名前だけは知っていたのに観たことがなかった『フォレストガンプ』を、新学期前夜の深夜に観てしまった。でも結果オーライ。アメリカの激動の時代を生きた一人の男の半生を描いたヒューマンストーリーだ。生まれつきIQが低い主人公が、愚直に、誠実に生きることで、様々な人を巻き込み、自分の人生をプラスの方向へ切り拓いていく。ドラスティックな展開が続くのに、ガンプが大活躍する様をコミカルに描いていて、何度も大笑いしてしまった。一方で、ババやママとの別れのようなシリアスな場面も良かった。ハンディキャップを抱えていても、前向きに生きていれば、人であれ機会であれ、何らかの「チャンス」はやってくる――そんなことを感じさせてくれる映画だった。
小技:アレクサで本を音読させる
最後に、当時ちょっと気に入っていたライフハックを。買ったばかりの Amazon Echo(Alexa)に、Kindleライブラリの本を音読させる――勝手に「アレクサオーディブル」と名付けた小技だ。
やり方はシンプルで、「アレクサ、『(本の名前)』を音読して」と呼びかけるだけ。Kindleライブラリから該当する本を読み上げてくれる。呼びかけ方の精度はこんな感じ:
- 「『(本の名前)』を音読して」→ ほぼ確実に読んでくれる
- 「(著者の名前)の本を音読して」→ ほぼ確実に読んでくれる
- 「(本に関わるキーワード)の本を音読して」→ 体感5割くらいの的中率(『人工知能は人間を超えるか』は「人工知能」だけで引き当ててくれた)
注意点もある。Kindleライブラリにある本しか読めない、音読の質は本家オーディブルに劣る、難読漢字はよく読み間違える、疲れて時々中断する、本家に比べて無機質に聞こえる――など。音読の質はあまり期待しない方がいいが、一度読んだ本を「復習」するにはちょうどいい。
――こうして並べてみると、メディアアートやデジタルネイチャーへの関心、起業やビジネスコンテストへの挑戦、教養への渇望。2018年春の僕が手を伸ばしていたものは、その後の進路に、形を変えて確かにつながっていった。